梅田望夫さんのイベントに行ってきました(後編)

日本語環境を使えるPCがトラブルでダウンしていて、遅くなってしまいましたが前回のポストの続きを。
前回は前半30分で考えたことを書いたので、今回は後半の感想・考えたことを数点ほど。

−ソフトウェア開発の方法は実際のところあまりわかっていない。現場では毎日バグで困っているが、バグがどう作られるかはわからない。バザール方式開発が生産性が高いのはわかっているが、なぜ高いのかはよくわからない。(吉岡さん)


ソフトウェア開発がどのようになされるかの解明もまだなされていないけれど、さらにオープンソース開発(バザール方式)がなぜうまくいくのか、のメカニズムを解明するためには、さらに高いハードルがあるように思う。
と、いうのが、オープンソース開発は原則無償であるため、経済的に合理的な意思決定として各個人の行動をモデル化することができないから。定義にもよるけれど、オープンソースは利他的な行動をベースに成り立っている。今のところ、そういった利他行動をきっちりと説明するモデルは、経済学においても工学においても、僕の知る限りない。
前回のポストでも書いたけれど、オープンソース現象がなぜうまくいくのか、どのように成り立っているのかをわかることは、大きな意味を持つと思う。
そのモデル化の研究をやっている人も世界にはきっといるんだろうな。


オープンソースは、歴史的に見てとても大きい話に思える。人間の善意の総和と悪意の総和を比べたら、善意の総和が大きいのではないか?オープンソースがうまくいっているという事実を見ると、そんな楽観主義が正しく思える。(梅田さん、吉岡さん)


オープンソースは生産のあり方の転換という意味で大きな話だが、さらに、その背後にある文明、哲学の話を考えると、たしかにさらに大きい話だと思う。インターネットによって個人が自由に自己表現し、他の個人とインタラクションする現在、デジタル化された世界中の個人の善意と悪意が総和としてネット社会を動かしている。考えてみれば、そんな時代は今までになかった。インターネットでつながった個人がダイレクトに、あるいはゆるやかな組織・コミュニティを通じてインタラクションをする様子を通じて、人間の本質の一側面が新たに見えてくる、そんな気がする。
情報文化学の人などは、そのようなことを今解析しているのだろうか。一体、善意の総和と悪意の総和は、どちらが大きいのだろう?歴史がその解を出すのが楽しみでもある。


オープンソースでも、ビジネスも回らなくてはいけない。十分利益を得た上でオープンソースに貢献するにはどうしたらいいかはまだわからない。(吉岡さん)


この話は、CSに行く僕としてはとても興味がある。プログラムを書いてもご飯を食べられなくなるとしたら、大変なことだ。それは、他の知的生産についても然り。知的生産の多くがオープンソース的にされるようになったら、皆どうやって食べていくのか?
だが、ここについては今のところこのように僕は考えている。知的労働の金銭化の源泉が、ソースコードの独占的所有とライセンス販売から、サービスの提供への対価へと変化することで、企業は飯の食い上げにならずにすむ、と。企業は、オープンソース開発に貢献しつつ、その果実を自社のサービスに利用し、またサービスのコアの部分はクローズしておくことでサービスの独自性を守って収益を確保する。このようにして多くの企業がオープンソースに貢献しつつ、収益も確保し、オープンソースに貢献している多くの個人とともに共生する生態系を作っていければ、インターネット上のサービスの質はどんどん上がっていくのでは。
ただ、サービスのマネタイズ(金銭化)の方法は、まだ問題が残る。数ヶ月前にYahooの人の話を聞いたところでは、今のところマネタイズの方法はユーザからお金をもらうか、広告、この二つしかないようだ。しかも、前者はあまりうまくいっていないという。
広告だけでは大きいとはいえパイのサイズは限られてくる。人々が知的生産をオープンソース的に行い、しかもご飯を食べていくには、今とは違うマネタイズの方法が必要になるのかもしれない。


−なぜ梅田さんははてなに注目したか?創業者の近藤さんに初めて会ったとき、「なんだこれは?」と思った。変わり者で面白い。日本で唯一シリコンバレーの技術ベンチャーのにおいがする会社。(梅田さん)


個人的な思いいれとして、はてなのサービスは好きだし、近藤さんが自分と同時期にシリコンバレーに行ったのはなんだか嬉しい。日本発の技術ベンチャーが、世界に対して面白いサービスを提供できるようになったら、素晴らしいと思う。
僕も、そんな風に世界へ発信していく方法を模索していきたいと思う。


さて、明日はとうとう現在居るCalgaryからPalo Altoへと発ちます。
初めて立つスタンフォードがどんな場所か、今から楽しみ。できれば、きれいな写真をとってアップしたいと思います。